旅行業登録を取得して開業される事業者様の多くが、あわせて旅行業協会への入会を選択されています。
旅行業協会は、一般社団法人日本旅行業協会(JATA)と一般社団法人全国旅行業協会(ANTA)の2団体があり、いずれか一方に入会して正会員(保証社員)の資格を取得することになります。
「どちらの協会に入会したらよいのか」というご質問は、当法人にも数多くお寄せいただきます。従来は、費用構造と会員層の違いから比較的整理しやすいテーマでした。
しかし近年、入会承認までのスケジュールという観点が加わったことで、判断の前提が変わりつつあります。
このページでは、両協会の違いを整理したうえで、開業スケジュールを踏まえた選択の考え方をご案内いたします。
そもそも、なぜ旅行業協会に入会するのか
旅行業の登録を受けた事業者は、営業保証金を供託する義務を負います(旅行業法第7条)。ところが、旅行業協会の正会員(保証社員)となった場合には、営業保証金の供託が免除され、代わりに営業保証金の5分の1に相当する弁済業務保証金分担金を協会に納付することで足りることとされています(同法第49条、第52条)。
登録種別ごとに、最低額で比較すると次のようになります。
| 登録種別 | 営業保証金を供託する場合 | 保証社員として分担金を納付する場合 | 差額 |
|---|---|---|---|
| 第1種旅行業 | 7,000万円 | 1,400万円 | 5,600万円 |
| 第2種旅行業 | 1,100万円 | 220万円 | 880万円 |
| 第3種旅行業 | 300万円 | 60万円 | 240万円 |
| 地域限定旅行業 | 15万円 | 3万円 | 12万円 |
特に第2種旅行業では、協会に入会するかしないかで880万円もの差が生じます。第2種は国内の募集型企画旅行を自社で企画・実施できる種別であり、基準資産700万円以上という財産的基礎の要件も課されます。その上で1,100万円を供託するとなると、開業時に拘束される資金は相当な規模になります。
入会金80万円を支払ってでも協会に入会し、分担金220万円で済ませたほうが、手元資金を運転資金や商品造成に振り向けられる——第2種で開業される事業者様の多くが協会入会を選択されるのは、この差によるものです。第1種における5,600万円の差はさらに大きく、実務上、協会に入会せずに第1種の登録を受けるケースはほとんど見られません。
一方、地域限定旅行業では差額が12万円にとどまります。協会に入会すれば入会金だけで60万円を要しますので、供託金を節約する目的で入会する意味はありません。実務上、地域限定旅行業で開業される事業者様が旅行業協会への入会を選択されることは、まずないとお考えいただいてよいと思います。
つまり、このページで扱う「JATAとANTAのどちらを選ぶか」という論点は、実質的には第1種から第3種までの登録を検討されている事業者様に向けたものです。
このほか、協会が実施する研修やセミナーへの会員価格での参加、機関誌や業界情報の入手、書式類の会員価格での購入、旅行保険制度の利用といった付随的なメリットもあります。
なお、旅行業協会への入会は、旅行業登録の要件ではありません。協会に入会せず、営業保証金を供託して営業を開始することも可能です。この点は、後述するスケジュールの検討において重要な意味を持ちます。
JATAとANTAの基本的な性格の違い
両協会は、いずれも観光庁長官の指定を受けた旅行業協会であり、弁済業務や苦情処理といった法定業務を担っている点で共通しています。一方で、成り立ちと会員構成には違いがあります。
| 日本旅行業協会(JATA) | 全国旅行業協会(ANTA) | |
|---|---|---|
| 主な会員層 | 第1種・第2種を中心とした比較的規模の大きい旅行会社 | 第2種・第3種・地域限定を中心とした中小規模の旅行会社 |
| 業務の傾向 | 海外旅行・アウトバウンド関連の情報提供が充実 | 国内旅行・着地型旅行・地域振興に関する取組みが充実 |
| 組織 | 本部および全国8か所の地方事務局 | 本部および47都道府県支部 |
| 入会窓口 | 本部 | 主たる営業所の所在地の都道府県支部 |
| 会員数の規模 | 約1,100社(正会員) | 約5,500社 |
第1種旅行業として海外の募集型企画旅行を主軸に据える事業者様であればJATA、国内旅行や地域密着型の商品を中心とする事業者様であればANTA、というのが従来からの大まかな傾向です。
ただし、これはあくまで傾向にとどまります。登録種別による入会制限はなく、第3種でJATAに入会される事業者様も、第1種でANTAに入会される事業者様も実際に存在します。
費用の比較
費用は、選択にあたって最も具体的な判断材料となります。以下は、各協会が公表している2026年7月時点の情報にもとづく整理です(年会費はANTA東京都支部の例)。なお、地域限定旅行業の欄は、前述のとおり実務上は入会の対象となりにくい種別ですが、比較の参考として掲載しています。
入会金
| 登録種別 | JATA | ANTA |
|---|---|---|
| 第1種旅行業 | 80万円 | 250万円 |
| 第2種旅行業 | 80万円 | 80万円 |
| 第3種旅行業 | 80万円 | 80万円 |
| 地域限定旅行業 | 80万円 | 60万円 |
年会費
| 登録種別 | JATA | ANTA(東京都支部) |
|---|---|---|
| 第1種旅行業 | 普通会費 年額35万円<br>+特別会費 | 9万1,000円 |
| 第2種旅行業 | 同上 | 7万1,000円 |
| 第3種旅行業 | 同上 | 6万1,000円 |
| 地域限定旅行業 | 同上 | 2万5,000円 |
JATAの特別会費は「(常勤役員数+旅行業関係従業員数)×600円」で算出されます。ANTAの年会費は都道府県支部ごとに定められているため、東京都以外に主たる営業所を置かれる場合は、当該支部への確認が必要です。
弁済業務保証金分担金(最低額)
| 登録種別 | 分担金 |
|---|---|
| 第1種旅行業 | 1,400万円 |
| 第2種旅行業 | 220万円 |
| 第3種旅行業 | 60万円 |
| 地域限定旅行業 | 3万円 |
分担金は法令に基づく金額であり、両協会で違いはありません。上記は最低額であって、実際には年間取引見込額に応じて算定されます。
費用構造から読み取れること
第2種・第3種では、入会金はいずれも80万円で差がありません。差が生じるのはランニングコストの側で、JATAとANTAの年会費には年間で30万円近い開きがあります。開業初期の固定費を抑えたい事業者様がANTAを選ばれることが多いのは、この構造によるものです。
一方、第1種では入会金の大小が逆転します。ANTAの250万円に対してJATAは80万円で、初期費用だけを見ればJATAのほうが170万円低くなります。年会費の差を年間25万円程度と仮定すると、概ね7年前後で初期費用の差が埋まる計算になります。第1種で登録を予定されている場合、費用面はどちらか一方に明確に軍配が上がるわけではない、ということになります。
なお、入会金と年会費は退会時に返還されません。返還されるのは弁済業務保証金分担金のみです。事業の継続見通しが立てにくい段階では、この点も判断材料になり得ます。
JATAの入会承認が理事会での承認後となりました
ここからが、このページで最もお伝えしたい内容です。
JATAへの入会は、従来、入会申請書類の提出から概ね2週間から1か月程度で入会承認が下りていました。随時受付・書類審査を基本とする運用であったため、開業スケジュールを組むうえで扱いやすい協会であったといえます。
しかし現在、JATAの入会承認は理事会での承認を経て行われる運用になりました。これにより、次のような影響が生じます。
- 入会申請書類を提出しても、直近の理事会の開催時期によっては承認まで1か月以上を要する場合があります
- 書類の提出時期が理事会の直後にあたると、次回の理事会まで待機することになります
- 従来の「2週間から1か月」という感覚で開業スケジュールを組むと、想定より遅れが生じるおそれがあります
なぜスケジュールに直結するのか
旅行業協会への入会手続は、旅行業登録申請の「前工程」にあたります。保証社員として登録を受けようとする場合、登録申請の添付書類として、旅行業協会に加入しようとする旨を証する書面(入会確認書等)を提出する必要があるためです。
つまり、手続の順序は次のようになります。
- 旅行業協会へ入会申請 → 協会による審査 → 入会承認
- 登録行政庁へ旅行業登録申請 → 審査(概ね1〜2か月)
- 登録通知書の受領
- 弁済業務保証金分担金の納付
- 納付済届出 → 営業開始
協会の入会承認が1か月遅れれば、その後のすべての工程が1か月後ろにずれます。営業開始日から逆算してスケジュールを組んでいる事業者様にとっては、看過できない変更点です。
ANTAの入会審査スケジュール
一方のANTAは、以前から審査の開催時期が限定されています。
ANTAでは、まず主たる営業所の所在地の都道府県支部に入会申請書類を提出し、支部において入会審査が行われます。東京都支部の場合、代表取締役と旅行業務取扱管理者に出席いただき、協会理事による面談を受ける形式です。
支部での審査を経たのち、本部の常任理事会において入会審査・承認決議が行われます。この常任理事会は、概ね2か月に1度の開催です。
したがって、書類提出の締切に間に合わなかった場合、次の審査まで約2か月待つことになります。ANTAへの入会を予定される場合は、支部に対して直近の審査日と書類提出締切日を早めに確認しておくことが不可欠です。
両協会の「速さ」の差は縮まりつつあります
これまで、JATAは随時受付で承認が早く、ANTAは審査が2か月に1度であるため時間がかかる、という整理が実務上の常識でした。JATAの入会承認が理事会承認を経る運用となったことで、この差は相対的に小さくなっています。
「急いでいるからJATA」という選び方は、現在では必ずしも成り立ちません。いずれの協会を選ぶ場合でも、会議体の開催サイクルを前提としたスケジュール設計が必要になっています。
選択にあたっての5つの判断軸
以上を踏まえ、当法人では次の5点を整理したうえでご判断いただくようお勧めしています。
(1) 登録種別と業務範囲
第1種で海外の募集型企画旅行を主軸に据えるのであれば、海外旅行関連の情報提供やアウトバウンド関連の取組みが充実しているJATAの機能を活かしやすい面があります。国内旅行や着地型商品を中心とされるのであれば、ANTAの支部単位の活動や地域とのつながりが実務に結びつきやすいといえます。
(2) 費用構造と回収可能性
初期費用(入会金)とランニングコスト(年会費)のどちらを重視するかによって結論が変わります。前述のとおり、第1種では入会金の差が大きく、第2種・第3種では年会費の差が大きい、という構造の違いがあります。
(3) 開業予定時期
取引先との契約開始日や、繁忙期に間に合わせたいといった事情がある場合、協会の会議体の開催サイクルは決定的な制約になります。「いつまでに営業を開始したいか」から逆算し、そこから協会を選ぶ、という順序の検討が必要な場面もあります。
(4) ネットワークと情報
同業他社との横のつながり、研修体系、相談窓口の使い勝手など、入会後に継続的に受けられる便益をどう評価するかという観点です。会員層が異なるため、得られるネットワークの性質も異なります。
(5) 事業の継続見通し
入会金は返還されません。事業規模の拡大に応じて将来的に種別変更や協会変更を検討される可能性がある場合、当初の選択にどこまでコストをかけるかという判断が生じます。
開業を急がれる場合の選択肢
営業開始日が動かせず、協会の審査サイクルを待つ余裕がないという場合には、旅行業協会に入会せず、営業保証金を供託して登録を受けるという選択肢もあります。
協会の入会承認を待つ工程が不要になるため、登録申請に着手できる時期が早まります。営業保証金は供託金であり、事業を廃止して所定の手続を経れば返還されます。入会金のように費消される費用ではない、という点も考慮に値します。
もっとも、供託金は営業期間中は拘束され続けます。また、協会に入会していないことによる情報面・研修面の不利益もあります。実務上は、まず営業保証金を供託して営業を開始し、事業が軌道に乗った段階で協会に入会して供託金の取戻しを行う、という順序をとられる事業者様もいらっしゃいます。
いずれの方法にも一長一短があり、開業時期・資金計画・事業計画の三者を並べたうえで検討されることをお勧めいたします。
まとめ
JATAとANTAのどちらを選ぶべきかという問いに、一律の正解はありません。ただ、判断の前提として押さえておくべき点は、次のように整理できると思います。
- 費用面では、第2種・第3種は年会費でANTAに優位性があり、第1種は入会金でJATAに優位性がある
- 会員層と情報の性質が異なるため、取り扱う商品の内容によって得られる便益が変わる
- JATAの入会承認が理事会承認を経る運用となったことで、承認までの期間が従来より長くなる場合がある
- ANTAの本部常任理事会は概ね2か月に1度の開催であり、書類提出の締切管理が重要となる
- 開業時期が決まっている場合には、協会の会議体の開催サイクルから逆算したスケジュール設計が不可欠
かつては、費用で選ぶか、会員層で選ぶかという二軸で足りていました。現在は、そこにスケジュールという第三の軸が加わっています。特に、事業年度の開始に合わせて開業したい、取引先との契約開始日が決まっている、といった事情をお持ちの場合には、協会選択を後回しにせず、登録の検討と同時に着手されることをお勧めいたします。
なお、本ページに記載した費用等は、各協会が公表している情報にもとづく2026年7月時点のものです。年会費は支部により異なり、また審査の運用も変更される可能性がありますので、実際のご検討にあたっては最新の情報をご確認ください。

















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