旅行会社の登録種別
いわゆる旅行会社・旅行代理店と呼ばれている旅行事業者さんは、旅行業法に基づいて許認可を取得されて事業を行われております。その許認可は旅行業許可・旅行業免許と呼ばれることがありますが、旅行業法では『旅行業登録』と呼ばれております。
そして、旅行業を経営するために必要な許認可は、取扱う旅行業務の範囲によって、以下の6つに分かれます。
6つの種別 | |
旅行業 | 第1種旅行業 |
第2種旅行業 | |
第3種旅行業 | |
地域限定旅行業 | |
旅行業者代理業 | |
旅行サービス手配業 |
そして、第1種旅行業、第2種旅行業、第3種旅行業、地域限定旅行業は、その登録種別によって取扱うことができる業務の範囲が異なってきます。
登録種別 | 業務の範囲 |
第1種旅行業 | 海外・国内の募集型企画旅行
海外・国内の受注型企画旅行 海外・国内の手配旅行 他の旅行業者が実施する募集型企画旅行契約の代理締結 |
第2種旅行業 | 国内の募集型企画旅行
海外・国内の受注型企画旅行 海外・国内の手配旅行 他の旅行業者が実施する募集型企画旅行契約の代理締結 |
第3種旅行業 | 営業所の所在地とそれに隣接する市区町村内の募集型企画旅行
海外・国内の受注型企画旅行 海外・国内の手配旅行 他の旅行業者が実施する募集型企画旅行契約の代理締結 |
地域限定旅行業 | 営業所の所在地とそれに隣接する市区町村内の募集型企画旅行
営業所の所在地とそれに隣接する市区町村内の受注型企画旅行 営業所の所在地とそれに隣接する市区町村内の手配旅行 他の旅行業者が実施する募集型企画旅行契約の代理締結 |
登録区分で迷った場合は?
旅行業は、第1種旅行業、第2種旅行業、第3種旅行業、地域限定旅行業の4つに区分されています。
旅行業登録は、複数の種別で登録を行うものではなく、4つの区分のうちいずれかひとつの種別しか登録することができません。これから旅行業へ参入される方は、どの区分を取得すれば、悩むところですよね。
悩むところですが、いずれかの種別を選択しなければ、旅行業登録申請手続きを前に進むことができません。
第1種旅行業を取得すれば、国内・海外の両方の募集型企画旅行も実施することができるため、旅行事業の自由度が最も高いです。
その一方で、登録を取得するためのハードルが最も高くなります。特に財産的要件である基準資産額をクリアーするのに難儀されることが多いです。
例えば、会社設立後すぐに第1種旅行業の登録を受けたい場合は、資本金は最低でも4,400万円準備しないと基準資産額を満たすことができません。一方で、基準資産額が最も安価なのは地域限定旅行業ですが、取扱うことができる企画旅行と手配旅行の範囲が限定されてしまいます。
地域限定旅行業は、着地型の旅行業を始められる方には、少額の投資で起業できるため魅力的な登録種別です。
しかし、発地型の旅行業を始められる方にとっては、他の旅行業者が主催するパッケージツアーを自社で代理販売することが中心業務となり、営業所を設置する所在地(市区町村)によっては、企画旅行・手配旅行を、現実的にはほとんど取り扱うことができない場合があります。
したがって、迷ったときにはまずは第3種旅行業を登録して旅行業へ参入し、事業規模を拡大する時期に、第2種旅行業や第1種旅行業へ登録種別の変更を行うことを検討されるのが現実的かと思います。
なお、登録種別の変更は3種→2種→1種と順番に行う必要はなく、第3種旅行業者が第1種旅行業へ登録種別を変更することも、種別変更の条件を満たすのであれば可能です。
余談ですが、最近は、国内の募集型企画旅行を自社主催されたいという事業者様が多く、第2種旅行業登録を取得されるケースが増加傾向にあります。
どんなビジネスが「旅行業」にあたる?
旅行業登録が必要となる「旅行業」に該当するビジネスは、どのようなものなのでしょうか。
旅行業の定義は、旅行業法第2条に記載されていますが、次の3つの条件すべてを満たす場合は、旅行業に該当するとされています。
- 報酬を得ている
- 旅行業法第2条の各号に掲げられている旅行業務を行う
- 事業として行っている
旅行業法の条文を確認されたい方もいらっしゃるかと思いますので、以下に、旅行業法の第2条をそのまま掲載します。
※あとで説明しますが、これから旅行業を開業されるご予定の起業家様や起業担当者様は、「旅行業務」の内容について、旅行業法を一度確認しておくことをおすすめします。
旅行業法 第二条(定義)
この法律で「旅行業」とは、報酬を得て、次に掲げる行為を行う事業(専ら運送サービスを提供する者のため、旅行者に対する運送サービスの提供について、代理して契約を締結する行為を行うものを除く。)をいう。
一 旅行の目的地及び日程、旅行者が提供を受けることができる運送又は宿泊のサービス(以下「運送等サービス」という。)の内容並びに旅行者が支払うべき対価に関する事項を定めた旅行に関する計画を、旅行者の募集のためにあらかじめ、又は旅行者からの依頼により作成するとともに、当該計画に定める運送等サービスを旅行者に確実に提供するために必要と見込まれる運送等サービスの提供に係る契約を、自己の計算において、運送等サービスを提供する者との間で締結する行為
二 前号に掲げる行為に付随して、運送及び宿泊のサービス以外の旅行に関するサービス(以下「運送等関連サービス」という。)を旅行者に確実に提供するために必要と見込まれる運送等関連サービスの提供に係る契約を、自己の計算において、運送等関連サービスを提供する者との間で締結する行為
三 旅行者のため、運送等サービスの提供を受けることについて、代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次ぎをする行為
四 運送等サービスを提供する者のため、旅行者に対する運送等サービスの提供について、代理して契約を締結し、又は媒介をする行為
五 他人の経営する運送機関又は宿泊施設を利用して、旅行者に対して運送等サービスを提供する行為
六 前三号に掲げる行為に付随して、旅行者のため、運送等関連サービスの提供を受けることについて、代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次ぎをする行為
七 第三号から第五号までに掲げる行為に付随して、運送等関連サービスを提供する者のため、旅行者に対する運送等関連サービスの提供について、代理して契約を締結し、又は媒介をする行為
八 第一号及び第三号から第五号までに掲げる行為に付随して、旅行者の案内、旅券の受給のための行政庁等に対する手続の代行その他旅行者の便宜となるサービスを提供する行為
九 旅行に関する相談に応ずる行為
報酬とは?
旅行業の定義にある「報酬」ですが、旅行業務を行うことにより経済的収入を得ていれば、「報酬を得ている」ということになります。
したがって、
- 募集経費
- 割戻金
- 送客手数料
- 旅行業務取扱料金
などは、報酬に該当します。
また、企画旅行のように旅行者とは包括料金で取引される旅行契約の場合は、旅行者から収受したツアー代金は事業者の収入として計上されるので、「報酬を得ている」ことになります。
「旅行者からは手配料金は一切収受しないが、送客先の交通機関や宿泊機関から手数料を受け取る」という場合も、「報酬を得ている」と判断されます。
旅行業務とは?
旅行者と運送・宿泊・運送等関連サービス提供機関の間に入って、旅行者が運送・宿泊・運送等関連サービスの提供を受けられるように、旅行を企画または手配する業務や旅行相談に応じる業務が、旅行業務に該当します。
旅行業務については、旅行業法第2条に記載されており、これから旅行業登録を検討されている方は一度、目を通しておいた方がよい条文と言えるでしょう。
事業とは?
「事業」とは、同種の行為を反復継続して行うことをいいます。たとえば次のような場合は、事業性が認められます。
- 旅行の手配を行うことを宣伝している
- 店舗やホームページを構えて、旅行業務を行う旨の看板を掲げている
- 複数の企画旅行を実施している
旅行業に「該当する」事例
旅行者の費用負担による運送又は宿泊に関するサービスの提供を行う場合
- 日帰りバスツアーを企画し、貸切バス費用、旅先での食事代などを含めた参加費をあらかじめ設定して参加者を募集する場合
- 宿泊を伴う企業視察ツアーを企画し、電車代、宿泊料、旅行期間中の食事代などを含めた参加費を設定して参加者を募集する場合
旅行業に「該当しない」事例
- 相互に日常的な接触のある団体内部で参加者が募集され、その団体の構成員による参加者の募集 ※「日常的な接触」とは、互いに顔見知りかどうかが基準
- 同一職場内で幹事が募集する場合
- 学校により児童・生徒を対象として募集する場合
- 運送、宿泊のいずれも関係しないサービスの提供
- 運送機関の手配は行わない日帰りで現地集合・解散する史跡巡りツアーを募集する場合
- テーマパーク、遊園地、観劇、イベント、スポーツ観戦などの入場券のみの販売といった運送等関連サービスのみの手配を行う場合
- 運送事業者又は宿泊事業者自らが行う運送等サービスの提供
一般貸切旅客自動車運送事業者が自社のバスを使って日帰りバスツアーの募集を行う場合
旅館業許可を取得している宿泊施設が自社が運営する客室とゴルフプレーを組み合わせたゴルフパックの募集 - 運送事業者の代理人として発券する業務のみを行う場合
バスなどの回数券販売所
航空運送代理店
旅行業務は、旅行者から直接依頼を受けるか、運送または宿泊のサービス提供機関のために旅行者と直接取引をするなど、旅行者との間の何らかの旅行契約を伴う業務に限られます。
したがって、旅行者に対して旅行契約上の債務を直接負わない業務、例えば、添乗員の派遣業務や全国通訳案内士及び地域通訳案内士の手配業務は、旅行業務に該当しません。
よくご相談頂く事例として、お客様から宿泊や運送機関の費用を含んだ旅行代金を収受するケースが挙げられますが、これも旅行業に該当する可能性が高いと言えるでしょう。
旅行サービス手配業(ランドオペレーター業)
従前は、旅行業者から依頼を受けて運送または宿泊サービスの手配を行う、いわゆるランドオペレーター業を行う際には、旅行業登録は不要でした。
しかし、旅行業法が一部改正され、平成30年1月からは、国内・海外を問わず旅行業者から依頼を受けて、日本国内の下記の旅行素材の手配を行い手数料を得る事業を行う場合は、旅行サービス手配業の登録が必要になりました。
旅行サービス手配業の登録が必要な手配業務は、次の業務となります。
- 運送(鉄道、貸切バス、ハイヤー、タクシー等)または宿泊(ホテル、旅館、ホステル等)の手配
- 有償ガイドの手配(全国通訳案内士、地域通訳案内士の手配業務は除く)
- 免税店の手配
旅行業者がランドオペレーター業を行う場合は、旅行業の登録のみをすればよく、重複して、旅行サービス手配業の登録をする必要はありません。
なお、旅行業は、旅行者が運送または宿泊のサービスの提供を受けられるように手配する業務です。したがって、旅行業登録だけでは、観光バス事業やハイヤー事業のような緑ナンバーの車両を使った旅客運送業を行ったり、ホテル・旅館・ホステルなどの宿泊施設の運営を行うことはできません。
観光バス事業を行うためには一般貸切旅客自動車運送事業の許可を、ハイヤー事業を行うためには一般乗用旅客自動車運送事業の許可をそれぞれ取得する必要があります。
また、ホテル・旅館・ホステルといった宿泊施設を運営するためには、旅館業の許可を取得する必要があります。
旅行業登録を行うと、旅行会社が手配できる観光ビジネス全てを経営できるものだと思われている方もいらっしゃるようですが、そうではないのです。
旅行業はあくまでの他社が運営する交通機関や宿泊施設を手配するのが事業であるとご認識いただければと思います。
旅行の「企画」は旅行業者でないとできないのか
旅行の募集・実施・契約締結は、旅行業者でないとすることができません。
しかし、旅行の「企画」のみを行うことは、旅行業者でなくても行うことができます。とはいえ、旅行の実施・募集は旅行業者でしか行えないため、その部分は旅行業者に外注しなければなりません。
また、旅行業者ではない事業者が、旅行者から直接料金を受取ることもできません。
したがいまして、旅行の「企画」を旅行業者以外が行った場合は、問合せ・申込先及び旅行代金の支払先は、旅行業者とする必要があるのです。
募集型企画旅行と受注型企画旅行と手配旅行
旅行業者は、旅行業登録後に登録種別の則った旅行商品を販売することになりますが、これは契約の観点では、旅行者との間で、取引条件説明書面と旅行業約款に記載された条件で、運送・宿泊などのサービスを手配してもらうことを目的とした旅行契約を締結することになります。
旅行業者が旅行者との間で締結する旅行契約の形態は「募集型企画旅行」「受注型企画旅行」「手配旅行」の3つに区分されており、この3つの区分は、登録しようとする種別を決める上でとても重要な区分ですので、きちんと理解しておく必要があるでしょう。
募集型企画旅行
募集型企画旅行は、一般的には「パッケージツアー」と呼ばれています。手配する旅行の日程や内容などの旅行計画をあらかじめ旅行業者が作成し、広告や店頭のパンフレット、ホームページ上で参加者を募集するものです。
募集型企画旅行を企画した旅行業者には、旅行者保護のため、旅程管理、旅程保証、特別保障の三大責任が課されています。
受注型企画旅行
受注型企画旅行は、旅行業者が旅行者の依頼に基づいて、それに沿った旅行計画を提案します。オーダーメイド型のパッケージツアーが受注型企画旅行です。
受注型企画旅行では、旅行全体の代金とそれに企画料金の額を旅行者に提示します。募集型企画旅行と同様に、受注型企画旅行を企画した旅行業者にも、旅程管理、旅程保証、特別保障の三大責任が課されています。
旅程管理:必要な予約をとること、集合の時間や場所の連絡を行うことなど、旅行者がサービスを確実に受けられるようにすることです。
旅程保証:契約書面に記載された運送、宿泊、観光内容などに変更が生じた場合や、サービス内容が低下した場合などに、旅行業者が旅行者に対して変更補償金を支払うことです。
特別保障:企画旅行を実施する旅行業者の責任の有無を問わずに、旅行者が企画旅行参加中に、急激かつ偶然な外来の事故で、旅行者がその生命、身体または携帯品に被った一定の損害について、あらかじめ定める額の補償金及び見舞金を支払うことです。
手配旅行
手配旅行では、旅行者の依頼に基づいて、運送機関や宿泊施設などを旅行者の代わりに手配します。旅行者には、運送機関や宿泊施設の費用と、手配手数料を請求します。
手配旅行と企画旅行の違いのうち大きなものは、企画旅行では旅行者に手配を完成させる義務があるのに対し、手配旅行では、手配をしてみた結果、満席・満室などで席や部屋が確保されなくても、旅行業者は旅行者に対して手配手数料を請求することができる点と言えるでしょう(旅行業法上の話であって旅行実務では難しいと思いますが……)。
旅行業登録と申請先の登録行政庁
旅行業を始めるには旅行業法に則って「登録」が必要になりますが、申請先は、取得されたい「登録」の種別によって異なります。
第一種旅行業登録の登録行政庁は「観光庁長官」です。
第二種・第三種・地域限定旅行業・旅行業者代理業・旅行サービス手配業の登録行政庁は、「主たる営業所を管轄する都道府県知事」となります。
例えば、東京都新宿区に主たる営業所を置く第二種旅行業者さんの場合は、東京都知事が登録行政庁となるため、東京都庁にて登録手続きを行うことになるのです。
神奈川県川崎市に主たる営業所を置く第一種旅行業者さんの場合は、観光庁が登録行政庁となりますが、申請書類の提出先は主たる営業所を管轄する地方運輸局を経由することになるため、関東運輸局に書類を提出することになります。
各地方運輸局に旅行業担当窓口に提出する他に、主たる営業所を管轄する運輸支局の旅行業担当窓口にも申請書類を提出することは可能です。とはいえ、運輸支局に申請書類を提出すると、運輸支局→運輸局→観光庁と申請書類が転送されるため、書類の移動時間に日数がかかる点は注意が必要でしょう。
旅行業登録を行わないで営業してしまったら?
お伝えした通り、旅行業を始めるには旅行業の登録が必要になります。もし、登録行政庁の登録を受けず旅行業を行ってしまった場合は旅行業法違反となり100万円以下の罰金が科されます。
旅行業法に違反して罰金が科されてしまいますと、旅行業法に定められている登録拒否事由に該当してしまうため、5年間は旅行業登録を取得することができません。
旅行業登録の要否・旅行業法の解釈に関するお問い合わせについて
当法人へのお問い合わせで、「このビジネスモデルは旅行業に該当しますか?」「旅行業免許必要ですか?」といった旅行業登録の要否、つまり旅行業法の解釈に関するお問い合わせをいただきます。
このようなお問い合わせは、事業者様の事業内容を正確にヒアリングしてからでないと我々のような観光法務の専門家であっても正確な判断をすることができません。
したがいまして、メールもしくは電話にてお問い合わせくださっても、その場で回答することは控えさせていただいております。
私どもの事務所では、旅行業法の解釈に関するご相談は、法令調査業務として有料業務として承っておりますので、法令調査業務をご希望の場合は、メールもしくはお電話にて、ご面談日のご予約をお願いいたします。
ご面談は、武蔵小杉または都庁前オフィスにご来所、もしくはZOOMを使ったオンラインでのご相談からお選びいただけます。
一部の観光系行政書士事務所さんでは、旅行業登録の要否についても相談無料にて対応されているようですが、行政書士法人シグマでは回答の品質に社会的責任があると考えているため、有料相談業務として承っております。ご理解賜りますようお願い申し上げます。