旅行業の新規登録を取得するためには、基準資産額という財産的要件を満たさなければなりません。
とはいえ、基準資産額というのは資本金の額ではありません。
基準資産額は、旅行業法で定められた財産的要件です。ですので、株式会社を設立して旅行業を始めるためには、「いくらの資金が必要になるのだろうか?」「資本金をいくらにすればよいのか?」という悩みを抱えられている方が非常に多いです。
東京都において第3種旅行業を取得する旅行会社を始める資金
そこで、主たる営業所を東京都内に置いて、第3種旅行業の新規登録を目指す際に、手続きにはどのくらいの資金が必要になるのかをこのページでは解説していきます。
まず、はじめに、東京都内に会社を株式会社設立して、その株式会社にて第3種旅行業登録を取得する際の大まかな手続きの流れを確認しましょう。
なお、第3種旅行業登録は旅行業協会へ入会しなくても取得することができます。
上記流れの中の「2.旅行業協会の入会申込手続き」は、旅行業協会へ入会し、旅行業協会の保証会員の資格を取得されたい会社にのみ必要な手続きとなります。
つまり、旅行業協会へ入会しない場合は、株式会社の設立手続きが完了したら、旅行業の新規登録申請手続きを進めることになります。
前置きはここまでにして、費用総額を旅行業協会に入会しない場合と入会する場合の両方を確認していきましょう。
旅行業協会に入会しない場合の費用:約330万円
その内訳は、以下のようになります。
株式会社の設立 | 定款認証費用 | 52,000円 |
---|---|---|
登録免許税 | 150,000円 | |
旅行業の登録 | 申請手数料 | 90,000円 |
営業保証金 | 3,000,000円 | |
合計 | 3,292,000円 |
営業保証金300万円は、初年度の旅行者との取引額が2億円未満の場合の額です。2億円以上の場合は増額されますので、詳細は当法人へご相談ください。
旅行業協会に入会する場合の費用:約180万円
その内訳は、以下のようになります。
株式会社の設立 | 定款認証費用 | 52,000円 |
---|---|---|
登録免許税 | 150,000円 | |
旅行業の登録 | 申請手数料 | 90,000円 |
弁済業務保証金分担金 | 600,000円 | |
旅行業協会の入会
(ANTA) |
入会金 | 800,000円 |
年会費 | 61,000円 | |
合計 | 1,753,000円 |
弁済業務保証金分担金60万円は、初年度の旅行者との取引額が2億円未満の場合の額です。2億円以上の場合は増額されますので、詳細はご相談ください。
また、旅行業協会は全国旅行業協会(ANTA)と日本旅行業協会(JATA)の2つがありますが、第3旅行業の場合はANTAを選択される事業者さんが多い印象を受けております。このページではANTAの入会金・年会費で費用を算定しております。
旅行業協会に入会することで、入会金・年会費の負担が生じますが、旅行業営業中に納付義務のある営業保証金の額を5分の1に圧縮することができます。旅行業起業の際のキャッシュアウトを少しでも抑えたい、運転資金を手元に残しておきたいという方は、旅行業協会へ入会を検討された方がよいでしょう。
なお、ここでご紹介している費用には、手続きを司法書士や行政書士に依頼する費用は含まれておりません。
会社設立手続きは司法書士が、旅行業登録申請手続きは行政書士がそれぞれ対応いたしますが、上記費用は、司法書士や行政書士に依頼しないで、全ての手続きを自社のみで対応された場合の費用となります。
司法書士や行政書士に手続きを依頼する場合は、これらの費用に専門家へ支払う報酬額を加算してください。
将来的に旅行事業を廃業した場合はどうなるの?
起業時にこのような話をするのは不謹慎かもしれませんが、旅行業から撤退、旅行業を廃業するときもお伝えいたします。
旅行業撤退したら、上記の費用からどの金額が手元に戻ってくるのでしょうか。
旅行者に対する債務がなく、納付している保証金が全額戻ってくると仮定した場合は、旅行業協会に未入会の場合は営業保証金300万円が、旅行業協会に入会している場合は弁済業務保証金分担金60万円が、最終的に会社に戻ってきます。
旅行業協会へ支払った入会金や年会費は、廃業しても返金されません。
開業資金に余裕があり、かつ、旅行業協会へ入会するメリットを感じられない事業者さんは、旅行業協会には入会せずに旅行業を展開された方が、廃業した際の資金流出は抑えることができます。
営業拠点としての事務所の保証金や賃料
旅行業を営むためには、営業拠点となる事務所(営業所)や、旅行業務取扱管理者の確保が必須です。インターネット上だけで取引を行う旅行会社(OTA)であっても、事務所の確保と、旅行業務取扱管理者の確保が必須です。
事務所は、旅行業を始められる際に新たに事務所を借りられることが多いですが、その際の保証金や賃料は、借りられる物件によってさまざまですので、上記の資金とは別に必要になってきます。
事務所を借りたら、事務所内に置く机、椅子、キャビネット、電話機、パソコン、複合機などの事務機器用品の費用も別に必要になってきます。
旅行業務取扱管理者の雇用等に伴う人件費
さらに、旅行業務取扱管理者を新たに採用する際には、賃金や社会保険料などの人件費も必要です。
経営陣が旅行業務取扱管理者試験に合格しているのが理想ですが、そうでない場合は、外部から管理者を確保しなければ旅行業登録申請手続きを進めることができません。
人件費を削減するために、旅行業務取扱管理者試験合格者である個人事業主に外部委託を検討される方がいらっしゃいますが、外部委託は、旅行業務取扱管理者の常勤・専従性の条件を満たせないため、旅行業務取扱管理者は外部委託はできません。
つまり、運転資金が旅行業の登録申請に必要な資金とは別に必要になってきます。
旅行業で起業するためには、開業資金や運転資金として、多額の資金が必要になることはご理解いただけたのではないでしょうか。
開業資金が不足する場合は、借り入れ資金で充当できるのか?
旅行業を始めるにあたり開業資金や運転資金が不足するため、銀行などの金融機関から借り入れを行う際には、旅行業法で定められている基準資産額の算定の際に注意が必要になります。
借入金は負債です。自己資本ではなく他人資本に該当します。したがいまして、借入金は、基準資産額を算定する際には、負債額として控除しなければなりません。
そのため、すでに事業を営んでいる会社が新たに旅行業をはじめようとする場合、収支自体は黒字であったり、現預金はある程度持っていたりしても、借入金の額によっては基準資産額が足りないという状況に陥ることがあります。
そのような場合には、増資を行って基準資産額を満たすことができることもありますが、そういった方法が採れない場合には、新たに会社を設立して、新設会社で旅行業登録をするという選択肢もあります。
資本金は最低でも500万円必要
株式会社を設立し、旅行業協会へ入会申込を経て、第3種旅行業を取得する際、新設する株式会社の資本金は最低額は360万円です。とはいえ、運転資金等を考慮すると、資本金は500万円以上必要になると、当法人では考えております。
500万円の自己資金では事務所の賃貸や人件費などの運転資金が不足するため、1000万円の創業融資を金融機関より受けた場合の基準資産額の計算式は次のとおりです。
第3種旅行業登録の基準資産額は300万円以上となっていますので、上記の財務内容では、残念ながら第3種旅行業の新規登録を取得することはできません。
とはいえ、金融機関からの借り入れを行う時期を調整することで第3種旅行業の登録を取得することが可能になります。
旅行会社を設立して旅行業を始められたい方は、資産の要件を満たさない事態に陥らないよう、必ず会社設立の前に、当法人までご相談ください。
行政書士法人シグマでは、日本政策金融公庫の創業融資支援を行っております。旅行業で起業される方で、起業後に、日本政策金融公庫の創業融資制度の活用を検討されている方は、当法人がワンストップで支援いたします。