行政書士法人シグマでは、日々、旅行会社設立手続きについて多くのご相談のお話を伺っております。旅行会社設立のはじめから当法人にご依頼頂いているお客様は問題なく手続きが進むのですが、設立手続きの途中から当法人が関与する案件では、
「非常に申し上げにくいことなのですが、御社の状況では、旅行会社設立手続きは一旦中断しないと先に進められません・・・」
と申し上げることがあります。
旅行会社設立手続きをタイトなスケジュールで進められているご相談者様も多く、小さな「しくじり」でも、旅行業開業時期が大幅に遅れるダメージを与えることがあります。
そのような不幸を一つでも減らしたいと行政書士法人シグマでは考えております。そこで、このページでは、我々が見聞きした旅行会社設立手続きの失敗事例の一部についてご紹介したいと思います。
しくじり事例その1:営業所の場所
旅行業登録を取得するためには、営業所の確保が必要になります。
インターネット上で旅行商品の取引を行う旅行会社(OTA)であっても、営業所の確保が必要になります。OTAの場合は旅行者が来店しないため営業所は不要であると考える事業者さんが多いように感じます。
バーチャルオフィスで旅行業登録
そのような事業者さんは、自社占有スペースがなく、本店登記だけができるバーチャルオフィスと呼ばれるレンタルオフィスを契約して旅行業の営業所とされようとするのですが、バーチャルオフィスでは、旅行業登録を取得することができません。
ワンルームマンションで旅行業登録
バーチャルオフィスではなく、ワンルームマンションなどの共同住宅の1部屋を借りられて旅行業の営業所とされる方もいらっしゃいます。
旅行会社の営業所は、広さや設備の要件は定められておらず、登録票、料金表の掲示や、旅行業約款の掲示もしくは備え置きができる占有部分を確保できるのであれば、オフィスビル内に営業所を設けなくても、マンションの一室を旅行業の営業所として使用することは可能です。
とはいえ、共同住宅を借りて営業所とする場合は、物件の使用目的が居住用となっている場合は、その物件は旅行業の営業所として使用することはできません。
居住用で借りている物件を旅行業の営業所として使用したい場合は、物件の使用目的を事務所として賃貸借契約を再締結するか、物件所有者から、旅行業の営業所として使用しても良いという承諾を得る必要があります。
間借りで旅行業登録
旅行業登録申請を行う法人とは別の法人が借りているオフィスの一部を借りて、いわゆる間借りをして、旅行業の登録を検討される事業者さんもいらっしゃいます。
起業時の固定費を圧縮するために、他社が借りている事務所の一部を間借りして旅行業登録を取得することは可能ですが、間借りする場合は、間借りしたい事務所の物件所有者さんより同居の承諾を得る必要があります。
この同居の承諾は、資本関係のある会社同士の同居であれば、承諾は得やすいようですが、資本関係が全くない会社同士の同居であったり、物件所有者が大手不動産会社である場合は、同居承諾を得ることができずに本店移転を余儀なくされる可能性もあります。
また、仮に承諾を得られても旅行業登録申請書類に添付する承諾書へ捺印を頂くのに時間を要したりと、苦労される事業者さんもいらっしゃいます。
しくじり事例その2:事業目的
旅行会社の登記簿・定款に記載する事業目的の記載は、多くの登録行政庁では次の記載のように記載するよう定められております。
<第1種、第2種、第3種、地域限定旅行業>
「旅行業」もしくは「旅行業法に基づく旅行業」
<旅行サービス手配業>
「旅行サービス手配業」もしくは「旅行業法に基づく旅行サービス手配業」
<旅行業者代理業>
「旅行業者代理業」もしくは「旅行業法に基づく旅行業者代理業」
当法人で会社設立手続きからお手伝いしているお客様や、他の事務所で会社設立手続きを行われる場合でも定款認証前の定款案作成時点から当法人が旅行業登録申請手続きで関与しているお客様の場合は、この事業目的の記載でのしくじりは防ぐことができます。
が、他の士業事務所さんで会社設立手続きを行われたり、ご自身で会社手続きを行われたりする場合、会社設立手続きが完了してからご相談頂く場合は、ご面談の際に登記簿謄本を拝見すると事業目的の記載に不備がある場合があります。
この場合は、原則、事業目的の変更登記申請が完了してから、旅行業協会や登録行政庁への申請手続きを進めることになります。
旅行業らしい事業目的でも登録できないことがある
「旅行代理店」「旅行代理店業」「一般旅行業」「国内旅行業」は、一見すると旅行会社の事業目的に感じます。
しかし、「旅行代理店」「旅行代理店業」という文言は旅行業法上の文言ではありませんので、これらを事業目的に記載して旅行業登録申請を行うと、多くの行政庁では補正となってしまいます。
また、旅行業界に長年勤務されている方が旅行会社を独立されて起業されるケースでは、「一般旅行業」「国内旅行業」と事業目的が記載されている場合がありますが、現在の旅行業法では、一般と国内という区切りは行っておりませんので、これも補正となることが多いでしょう。
設立して間もない事業者様が旅行業登録のご面談にお越しになった際、事業目的の記載に不備があることをお知らせすると、「専門家に頼んだのに」と仰る事業者さんがいらっしゃいます。
そのお気持ちはわかるのですが、その専門家は、会社設立の専門家であって、旅行会社設立の専門家ではなかったため、旅行会社設立手続きに必要な事業目的の記載についてのお作法をご存知ではなかったのだと思います。
しくじり事例その3:資本金
旅行会社の設立手続きを検討されておりご相談者さんより、「資本金はいくら準備すればよいですか?」質問されることが多いのです。
取得される登録種別や、旅行業協会へ加盟・非加盟で必要な資本金が異なってくるため、検討されている事業内容を詳細に伺わないと所要資本金の額は、お伝えすることができません。
- 第一種旅行業登録の基準資産額:3,000万円
- 第二種旅行業登録の基準資産額:700万円
- 第三種旅行業登録の基準資産額:300万円
- 地域限定旅行業登録の基準資産額:100万円
観光庁や都道府県の旅行業担当部局が作成した旅行業登録のホームページや手引きを見ると、必ず基準資産額という表現と金額が記載されています。
基準資産額は、一見すると資本金の額に思えますが、基準資産額は資本金の額ではありません。もし基準資産額を資本金の額と読み違えて会社設立手続きをし、その直後に旅行業登録申請手続きを行っても、財産的要件を満たしていないため、その申請は拒否されてしまいます。
過去に、第三種旅行業の登録取得を行われるために資本金300万円で株式会社を設立され、登記手続き完了直後に、旅行業登録申請手続きのご相談にお越しになった事業者さんがいらっしゃいました。
資本金300万円では、第3種旅行業登録の基準資産額を満たしていないため、設立直後でしたが増資手続きを行い、旅行業の登録申請を行わせて頂きました。大事なことなので2回言いますが、基準資産額は、資本金の額ではありません。
しくじり事例その4:役員の任期切れと代表者の住所変更忘れ
設立してすぐの会社では問題になるしくじりではありませんが、会社設立後、数年経ってから、新規事業として旅行業に参入される事業者さんの場合は、役員の任期切れと代表者の自宅住所変更忘れに注意が必要です。
旅行業登録申請の際には、履歴事項全部証明書(登記簿謄本)に加えて、定款の写しを提出します。登記簿謄本と定款の両方を見ることでその会社の役員(取締役や監査役)が任期中なのかどうかが、判明します。
また、役員の任期が満了していても、法務局からは、そのことの通知はありません。役員の任期は、自社で管理しなければなりません。
さらに、株式会社の場合は代表取締役、有限会社の場合は取締役・監査役は、住所が登記事項となっているため、この住所の変更忘れにも注意が必要です。
旅行業登録申請には、宣誓書や履歴書といった、役員の現住所を記載する書類の提出が求められます。それらの書類と登記簿上の住所が相違していると、旅行業の登録申請手続きが中断してしまいます。
つまり、旅行会社設立手続きを進める上では、役員に関する登記事項は、最新のものにアップデートしておく必要があります。役員の就任・辞任登記はまめに行われている事業者様でも、役員の重任登記が漏れていたり、役員の住所が旧住所になっているケースも見受けられますので、ご注意ください。