旅行業を営む上で、重要な役割を果たしているのが「旅行業務取扱管理者」です。旅行業法では、旅行業者は営業所ごとに旅行業務取扱管理者を確実に選任しなければならないと規定されております。
しかしながら、旅行業務取扱管理者より突然退職の申し出があった場合どのように対応すべきか悩む旅行業者さんも少なくありません。
このページでは、旅行業務取扱管理者が退職した際に、旅行業登録が維持できるかどうか、具体的な対応策を含めて解説します。
1.旅行業務取扱管理者の重要性
旅行業務取扱管理者は、選任された営業所での次の業務の管理及び監督に関する事務を行います。
- 旅行に関する計画の作成に関する事項
- 旅行業務の取扱い料金の掲示に関する事項
- 旅行業約款の掲示及び備置きに関する事項
- 取引条件の説明に関する事項
- 契約書面の交付に関する事項
- 企画旅行の広告に関する事項
- 運送等サービスの確実な提供等、企画旅行の円滑な実施のための措置に関する事項
- 旅行に関する苦情の処理に関する事項
- 契約締結の年月日、契約の相手方その他の契約の内容に係る重要な事項についての明確の記録又は関係書類の保管に関する事項
- 取引の公正、旅行の安全及び旅行者の利便を確保するため必要な事項として観光庁長官が定める事項
そして、旅行業者は、取扱旅行商品と矛盾がなく、かつ、法定の欠格事項に該当しない人で旅行業務取扱管理者試験に合格された方を、旅行業務取扱管理者として選任しなければなりません。選任は一定の条件を満たす地域限定旅行業者を除いて、営業所ごとに選任しなければなりません。
営業所で選任している旅行業務取扱管理者が退職した場合、後任者を探さなければなりません。社内に旅行業務取扱管理者試験に合格された方がよいのですが、社内に旅行業務取扱管理者試験に合格された方がいないため、選任している旅行業務取扱管理者の退職日までに後任者が見つからない場合は、旅行業登録はすぐに廃業しなければならなくなるのでしょうか?
2.旅行業務取扱管理者が退職した場合の影響
旅行業務取扱管理者が退職した場合、旅行業登録は維持できないのでしょうか。
結論として、旅行業務取扱管理者が不在となった場合、旅行業登録をそのまま維持することはできます。旅行業務取扱管理者が退職し後任が見つからない場合は、すぐに旅行業登録が取り消されるものではありません。
しかしながら、後任の旅行業務取扱管理者を選任するまでの間は、その営業所では、旅行業務に関する契約を締結することができません。
つまり、旅行業登録を維持できますが、新たな旅行業務に関する契約を結ぶことができないのです。旅行業務取扱管理者が未選任の営業所は、すでに締結済の旅行業務に関する契約が履行できるのみになります。
もし、旅行業務取扱管理者を選任しない状態で新規の旅行業務に関する契約を締結した場合は、旅行業法違反として、18日間の業務停止の行政処分を受けることになります。さらに30万円以下の罰金が科されます。
業務停止の期間が累積60日間に達した場合は、登録行政庁は旅行業登録の取消を行うことができます。
旅行業登録は5年ごとの更新制となっていますが、旅行業務取扱管理者の後任者が選任できない状況では、旅行業登録の更新はできません。後任者を選任できない場合は、現在の有効期限の満了日をもって廃業となってしまうのです。
3.旅行業務取扱管理者が不在となった場合の対応策
万が一、旅行業務取扱管理者が退職することになった場合、最も重要なのは、新しい旅行業務取扱管理者を確保することになります。
旅行業務取扱管理者試験の合格者である従業員がいる場合、その従業員を管理者として選任し、業務の継続を図ることを検討してください。もし、資格を持っている者が社内にいない場合は、早急に、外部から旅行業務取扱管理者試験合格者を採用しなければなりません。
とはいえ、外部から旅行業務取扱管理者試験合格者を採用するのは、人手不足が深刻化している日本では至難の業といえるでしょう。さらに旅行業務取扱管理者試験は一年に1回しか実施されない試験のため、旅行業者の都合が良い時期に受験できるものではありません。
そこで、旅行業務取扱管理者の欠員が出てもすぐに選任できるように、役員や従業員が旅行業務取扱管理者試験を受験して、合格者を社内に確保しておくことが重要になります。旅行業を継続するためには、旅行業務取扱管理者試験合格者の確保と選任に向けた計画的な対応が必要になるでしょう。
4.旅行業務取扱管理者が退職した場合の変更届出
営業所にて選任している旅行業務取扱管理者を退職したら、退職日から30日以内に登録行政庁へ届出る必要があります。
通常の旅行業務取扱管理者の変更届出手続きでは、変更後の旅行業務取扱管理者の情報を記載した旅行業務取扱管理者選任一覧表と合格者証の写し・宣誓書・履歴書を提出いたします。
旅行業務取扱管理者の退職日までに後任者が見つからない場合は、後任者の情報を記載した旅行業務取扱管理者選任一覧表や合格者証の写しなどは提出できませんが、登録行政庁に相談の上、旅行業務取扱管理者退職の届出手続きを行いましょう。
登録行政庁によっては、「後任の旅行業務取扱管理者を確保したら速やかに選任届出手続きを行う」旨や、「後任の旅行業務管理者が選任できるまでは新たな旅行契約を締結しない」旨の誓約書の提出が求められる場合があります。
営業所に旅行業務取扱管理者が不在の状況は緊急事態ですので、届出手続き方法については、登録行政庁と相談の上、慎重に進めてください。
5.まとめ
旅行業を営む営業所で選任している旅行業務取扱管理者が退職してしまい、後任の旅行業務取扱管理者を選任できない場合は、新たな旅行契約を締結することができません。
そして旅行業務取扱管理者が選任できない状況が続いてしまうと、旅行業登録の更新手続きができません。現在の有効期限の満了日をもって旅行業は廃業となってしまいます。
旅行業を継続するためには、旅選任している旅行業務取扱管理者の万が一の退職に備えて、事前に社内で資格取得を促進する体制を整えることが重要になります。