これまでのインタビューで、旅行会社の設立から登録までには、数多くの専門的な手続きと緻密なスケジューリングが必要であることが明らかになりました。では、これらの複雑な手続きを専門家に依頼した場合、どのようなメリットがあり、具体的にどれくらいの費用がかかるのでしょうか。インタビューの最後に、引き続き行政書士の阪本浩毅氏にお話を伺い、専門家活用のリアルに迫ります。
専門家に依頼する「本当の価値」とは
──阪本さん、これまでのお話で手続きの全体像と難しさがよく分かりました。正直なところ、これを一人でやり遂げるのはかなり大変そうだと感じています。やはり、阪本さんのような専門家の方にサポートをお願いする起業家の方は多いのでしょうか?
阪本:ご自身で手続きのことを勉強しながらやられる方もいらっしゃいますが、最初から専門家に支援を依頼される方もいらっしゃいます。ご自身で手続きを行われた方にお話を伺うと、「何度も行政機関の窓口に通って、大変だったよ」という方もいらっしゃいます。
──専門家にお願いする一番のメリットは、やはり「手間が省ける」ということでしょうか?
阪本:それも大きいですが、私たちが考える最大のメリットは「時間と安心」を手に入れられることです。特に重要なのは、後々の旅行業登録を完全に見据えた形で、最適な会社設立を行える点です。ご自身で手続きをされて、会社設立はできたものの、定款の目的や資本金の額が登録要件を満たしておらず、結局やり直しになった…という悲しいケースは後を絶ちません。
──なるほど。入口からゴールまでの最短ルートを知っている、ということですね。開業までの時間も短縮できるのでしょうか?
阪本:はい。私たちは、会社設立登記申請を対応される司法書士さんと連携して、会社設立から、旅行業協会への入会準備や行政庁への事前相談などを、無駄なく同時並行で進めることができます。起業家ご本人は、その間に事業計画を練ったり、ウェブサイトを準備したりと、ご自身でなければできないコア業務に集中していただけます。結果として、トータルでの開業までの期間が短縮に繋げることができます。
──阪本さんのような行政書士の方と、会社の登記を行う司法書士の方とでは、専門分野が違うのですよね?別々に探す必要があるのでしょうか。
阪本:良いご質問ですね。おっしゃる通り、会社の設立登記は司法書士、旅行業登録の申請代理は行政書士の専門分野です。私たちのようにお客様を総合的にサポートする事務所では、旅行業に精通した司法書士と緊密に連携しています。そのため、お客様が別々に専門家を探して、同じ説明を何度もする…といった手間は一切ありません。いわゆる「ワンストップ」で、シームレスに手続きを進められるのが強みです。もちろん、必要であれば税理士や社会保険労務士のご紹介も可能です。
ケース別・専門家に依頼した場合の費用
──では、皆さんが一番気になるところだと思うのですが、費用について具体的にお伺いします。例えば、株式会社を設立し、旅行業協会には入らずに「営業保証金」を供託する方法で、第三種旅行業の登録をお願いする場合、どれくらいの費用を見込んでおけばよいのでしょうか?
阪本:はい。まず、私たち行政書士と連携先の司法書士にお支払いいただく報酬が、合計で37万4,000円(税込)からというのが一つの目安になります。この報酬には、電子定款の作成費用も含まれていますので、ご自身で紙の定款を作った場合にかかる4万円の印紙代は不要になります。
──なるほど。その報酬に加えて、手続きに必要な「実費」がかかるのですよね?
阪本:その通りです。実費としては、まず株式会社の定款を公証役場で認証してもらうための費用が約5万2,000円。次に、法務局に納める設立登記の登録免許税が最低15万円。そして、東京都の場合ですが、旅行業登録のための手数料が9万円。これらを合計すると、報酬とは別に約29万2,000円以上の実費が必要になります。
──つまり、報酬と実費を合わせると、約66万6,000円から、と。そして、これに加えてあの大きな「営業保証金」が必要になるわけですね。
阪本:おっしゃる通りです。第三種旅行業の場合、300万円の営業保証金を法務局に供託する必要がありますので、専門家への依頼費用と実費、そして営業保証金を合わせると、開業までに最低でも370万円近い資金が必要になる、という計算になります。
──では、初期コストを抑えられる合同会社の場合はどうなりますか?
阪本:合同会社ですと、手続きが少しシンプルになるため、専門家への報酬も少しお安くなり、35万2,000円(税込)からとなります。また、実費も大きく変わってきます。合同会社は定款認証が不要ですし、設立登記の登録免許税も最低6万円で済みます。そのため、報酬と実費を合わせると、約47万円程度からということになりますね。もちろん、これに加えて営業保証金の300万円は別途必要です。
──費用がワンプライスになっていないのはなぜですか?
阪本:旅行業登録の申請を行う行政機関の場所や、事業規模、そして、登録要件の充足状況によって私どもの工数が変動するため、当法人ではワンプライス制を採っておりません。状況によってコンサルティング費用を加算させていただくこともありますが、ご面談の際に状況を伺って、御見積書を発行しております。お客さまにはお見積り金額にご納得頂いてからご依頼を頂いております。そのため、お申込ご請求時に費用が高額になっていたということは絶対にございませんのでご安心ください。
最後に:専門家活用は「未来への投資」
──ありがとうございました。専門家に依頼することは、単なる手続きの代行ではなく、スムーズな事業開始と将来の成功確率を高めるための「投資」である、ということがよく分かりました。
阪本:そう捉えていただけると嬉しいです。起業は、アイデアや情熱はもちろんですが、時間との勝負でもあります。専門家のサポートは、決して安い買い物ではないかもしれません。しかし、それによって得られる時間的なメリットや、手続きの失敗リスクを回避できる安心感は、価格以上の価値があると自負しております。これから旅行業という素晴らしい世界に挑戦される皆様には、ご自身の状況に合わせて、専門家の活用を賢く検討していただければと思います。
