営業所の所在地の制限を受けずに日本全国の募集型企画旅行を自社で主催する場合、第1種旅行業登録もしくは第2種旅行業登録のライセンスを取得する必要があります。
とはいえ、自社主催は国内の募集型企画旅行のみで、海外の募集型企画旅行は他社主催のものを代売で十分と思われている旅行会社さんもいらっしゃるかと思います。
また、そもそも、訪日旅行(インバウンド)専門の旅行会社さんでは、海外旅行は取扱わないという事業者さんもいらっしゃるのではないでしょうか。
このようにお考えの旅行会社さんは、基準資産額の要件が厳しい第1種旅行業登録ではなく、第2種旅行業登録への変更登録手続きを進めることになります。
登録種別の変更は旅行業法上では「変更登録」と呼ばれており、変更登録申請書とその添付書類は、主たる営業所を管轄する登録行政庁(都道府県)に提出します。
第2種旅行業への変更登録申請手続きの必要書類
登録行政庁が東京都の場合の必要書類は下記の書類です(申請者は法人を想定しています)。
- 変更登録申請書
- 旅行業務に係る事業の計画
- 旅行業務に係る組織の概要
- 法人税の確定申告書とその添付書類の写し(直近決算期のもの)
- 旅行業務に係る組織の概要(変更があった場合のみ提出)
- 旅行業務取扱管理者選任一覧表
- 旅行業務取扱管理者の合格書の写し
- 旅行業務取扱管理者の履歴書
- 旅行業務取扱管理者の宣誓書
- 標準旅行業約款
- 供託書又は弁済業務保証金分担金の写し
新規登録申請の際と比較すると、会社の定款・登記簿、役員の宣誓書、事故処理体制の説明書の添付が不要になります。一方で、供託書(旅行業協会の保証社員の旅行会社の場合は弁済業務保証金分担金)の写しの提出が必要になります。
変更登録の申請書類の中で、最も重要な書類は、直近決算期の法人税の確定申告書とその添付書類と言えるでしょう。
第3種から第2種へ変更登録申請を行う場合、第2種旅行業の基準資産額(700万円)を満たしていることが求められます。その証明方法は、変更登録申請日の直近の決算期の決算書類を使用します。例えば3月決算の第3種旅行業者さんが、2019年10月に、第2種旅行業への変更登録申請を行い場合、2019年3月期の決算書に記載されている数値を使用して、基準資産額を計算します。
計算した結果、基準資産額を満たしていない場合は、資産を増やすか、負債を減らすかの対応が必要になります。その対応は、債務免除、贈与を受けたり、不動産を所有している場合はその不動産の再評価、債務を株式化するデット・エクイティ・スワップ(DES)などといった方法が考えられますが、現実的な対応策は、資本金を増やす、いわゆる増資手続きになるかと思います。
変更登録申請手続きの流れ
東京都の場合は、第3種から第2種への登録種別の変更手続きは、ほぼ、新規の登録申請手続きと同じです。
都庁への変更登録申請書類の提出は郵送で行うことができず、新規や更新の申請と同様に申請日時の予約を取って、旅行業担当窓口へ提出に行く必要があります。
書類提出の際、担当官よりヒアリングが実施されるため、行政書士の他に、旅行業務取扱管理者も都庁に行く必要があります。さらに、旅行業務取扱管理者が会社の財務状況について説明できない場合は、財務担当者や役員の方の同席も必要になります。
変更登録申請書類に不備がなく東京都が受理すると、そこから審査期間は概ね1か月程度かかります。
申請書を提出したらすぐに第2種旅行業に変更とはなりませんのでご注意ください。
東京都で変更登録申請の審査が完了すると、変更登録通知書を受領するため、再度、東京都の窓口を訪問し、登録通知書を受領します。
登録通知書受領後、営業保証金の供託(旅行業協会の保証社員の場合は弁済業務保証金分担金の納付)を行い、納付後に、供託(納付)が完了した旨の届出を東京都に対して行うことで、第2種旅行業への変更登録申請手続きが完了となります。
変更登録申請の審査手数料
第3種旅行業から第2種旅行業へ変更登録申請を行った場合、東京都へ納付する審査手数料は11,000円です。
現金で納付します。この手数料は道府県によって異なりますので、東京都以外に申請する旅行会社さんで手数料を確認されたい場合は、申請先の道府県に直接ご確認ください。
変更登録申請前の確認ポイント
第3種旅行業から第2種旅行業へ種別の変更手続きに着手する際、行政書士法人シグマでは、以下の点を確認されてから変更手続きに着手されることをお勧めしております。
旅行業登録の有効期間
旅行業登録の有効期間は、登録日から5年間です。有効期間満了日以降も旅行業を継続する場合は、有効期間から2カ月前までに更新申請手続きが必要になります。
もし、第3種旅行業登録の有効期間が近い場合は、第2種旅行業登録への変更手続きに先立って、第3種旅行業登録の更新手続きを行ってください。そして、更新手続き完了後に、第2種旅行業の変更登録申請手続きを行いましょう。
取引額報告書
旅行業者さんは、事業年度終了後100日以内に、その事業年度における旅行業務に関する旅行者との取引の額を登録行政庁に報告する義務があります。
もし、取引額報告書を提出していない事業年度がある場合は、変更登録申請に先立って、取引額報告書の提出を行いましょう。
登録事項の変更届出
旅行業者さんは、旅行業登録後に、商号・代表取締役・本店所在地・営業所などの登録事項を変更した場合、その変更の日から30日以内に、その変更の届出手続きを行う義務があります。
もし、登録事業に変更が生じているにも関わらず変更届出手続きを行っていない場合は、変更届出手続きを行いましょう。
旅行業協会入会のタイミング
第3種旅行業者さんの中には、旅行業協会の保証社員にはなっておらず、営業保証金を法務局に供託されている事業者さんがいらっしゃいます。この事業者さんが、第2種旅行業へ登録種別の変更と旅行業協会へ入会を行いたい場合、どのタイミングで、旅行業協会へ入会すればよいのでしょうか。
財務状況に余裕がある旅行会社さんの場合であれば、第2種旅行業の登録取得後に、旅行業協会への入会手続きを行うことも可能です。とはいえ、現実的には、第2種旅行業登録の最低営業保証金1,100万円を220万円の5分の1に減額したいとお考えの旅行会社さんが多いのではないでしょうか。
このような場合、第2種旅行業の変更登録申請の前に、旅行業協会への入会手続きを進めましょう。
つまり、第3種旅行業者として旅行業協会へ入会し、弁済業務保証金分担金(最低額は60万円)、旅行業協会の入会金・年会費を納付します。旅行業協会への入会手続き完了後、第2種旅行業への変更登録申請を登録行政庁に行います。
第3種旅行業者として法務局に供託した営業保証金の取り戻し手続きは、第2種旅行業の変更登録申請手続きと並行して行うことになります。営業保証金の取り戻しは、旅行業協会に入会し保証社員としていの地位を取得後、6か月以上の期間、必要事項を官報で公告した後となります。
従いまして、第3種旅行業者として法務局に供託した営業保証金はすぐには戻ってきません。営業保証金の制度上、このような取扱になってしまいます。
旅行サービス手配業・旅行業者代理業から第2種旅行業へ
旅行サービス手配業や旅行業者代理業の登録を取得されている旅行会社さんが、第2種旅行業のライセンスを取得したい場合は、変更登録申請手続きではなく、新規登録申請手続きを行う必要があります。
まず、第2種旅行業の新規登録申請を行います。その登録が完了したら、従前の旅行サービス手配業登録や旅行業者代理業登録の廃止手続きを行います。
旅行サービス手配業・旅行業者代理業を廃止するタイミングは、最終的には登録行政庁と事前協議を行って確定させますが、一般的には、第2種旅行業の登録取得後に、旅行サービス手配業・旅行業者代理業の登録を廃止できるよう協議を進めることになります。
なぜならば、第2種旅行業登録申請前に旅行サービス手配業・旅行業者代理業の廃止手続きを行ってしまうと、旅行事業ができない許認可がない期間ができてしまうからです。
変更登録申請手続きは意外と大変
第3種旅行業から第2種旅行業への登録種別の変更は、変更手続きとはいえ、新規登録とほぼ同じ動きを取る必要があります。
ですので、意外と手間と時間がかかります。また、第2種旅行業への変更手続きを行うタイミングで旅行業協会へ入会する場合は、登録行政庁への変更登録申請手続きに加えて、旅行業協会への入会手続き対応や、営業保証金の取り戻し手続きが必要になるため、自社だけで完結するのは、なかなか大変だと思います。